2011年1月22日土曜日

モンポウ

大里さんがモンポウについて書いている文章を読んで、これがぼくがフランスから帰った後の体験だと気付いた。そしてそこには「それまで名前も知らなかった」と書かれてあるので、しかし、ぼくたちの間の会話では必ずモンポウの名前は出ていたはずだから、これは彼一流の韜晦で、ただもしも本当に彼がそれまでにその名前を知らなかったとしたら、これはもしかしたら「唯一」ぼくが大里さんに教えることのできた音楽かも知れない、と思った。そう考えて、ではぼく自身がいつにモンポウの名前を知ったのか記憶を辿ると、一番古い記憶にテレサ・ベルガンサの歌う歌曲《夢の戦い》からの二曲がある。このCDをいつ手に入れたか?そう、これはLPではなく、最初からCDだった。すると恐らくぼくが、パリである日本人メゾソプラノに熱を上げていた頃が一番可能性がある。その頃にホセ・カレーラスのスペイン歌曲集を買った覚えははっきりあるからだ。だからまさしく大里さんとよく会っていた時期にも当たる。ぼくがモンポウのピアノ曲についてよく知るようになるのは、東大の助手時代にサラベール社から出たばかりの『モンポウ、ピアノ曲集』を公費で駒場の図書館に入れた頃からである。だからその頃には、大里さんとはもう会わなくなっていた。つまり、ぼくからの大里さんへのモンポウ情報はまず歌曲であり、彼はそのことをすぐ忘れてしまったのかもしれない。でも名前だけはかすかに覚えていて、ピアノ曲自作自演の古LPを買ったのではないか?