2010年2月16日火曜日

根来論文

根来章子「デオダ・ド・セヴラックにおける「地域主義」と「エグゾティスム」の交錯」を読んだ。régionalisme を今まで「地方主義」と訳していたが、確かに「地域主義」の方が適切だろうし、フランス史などでそのように訳されているらしい。不勉強であった。しかし、フランスの「地域主義」理解の難しいところは、ナショナリズムと反中央(反パリ、反中央政府)が結びついているところだろう。ダンディなどは、そこにさらにヴァーグナー崇拝が絡んでくる。どうも『作曲法講義』などでは、フランスの劇音楽や宗教曲などは過小評価されているらしい。前者はドイツ・オペラの陰、後者はイタリアの宗教曲の陰に追いやられてしまっている。(これを「ダンディは様々な矛盾を裡に孕んだ人物なのだ」と評価する ー それで済ましてしまう ー というのもある。)セヴラックも、心情的には別にフランス国家に忠誠を誓おうなどとは思っていなかっただろう(第一次大戦に一兵士として ー 積極的に ー 参加したとしても)。むしろ、彼の身近のラングドックや「セルダーニャ」への想いの方が強かったように見える。この辺りの複雑な事情はきちんと明らかにする必要がありそうだ。
また、根来氏は、ダールハウスの論については言及していないが、彼は19世紀後半のナショナリズムに基づくいわゆる「国民楽派」的な運動が、前衛芸術の運動と容易に結びつくことを指摘している。つまり、伝統的な音楽語法をくつがえすのに、民族的な(民俗的な)要素をもってすることで、いたずらな「難解な前衛」拒否の感情を融和することができる。(そして同様のことはエグゾティスムについても言える。)