2020年1月25日土曜日

ゆみさんの《ピエロ》

というわけで、1月18日に大阪はモーツァルトサロンにて、奈良ゆみさんのソプラノ、谷口敦子さんのピアノ、その他の器楽伴奏で、シェーンベルク《月に憑かれたピエロ》と《ブレットル・リーダー》を聴いたのの感想を書く。
実を言うと、昨年には京都のゲーテ・インスティテュートでやはり同じ曲を聴いていた。こちらは九条山アンサンブルの演奏で。どちらも素晴らしかった。しかし比較してみると、ゆみさんの《ピエロ》の方がより後期ロマン派の香りを漂わせていた。《ピエロ》というと「現代音楽の始まり」的な、「無味乾燥な無調音楽」のような印象で構えてきかれがちなので、そう言う意味では「現代音楽」的な響きは九条山アンサンブルの方にあり、それと比べてゆみさん《ピエロ》は、マーラーの衣鉢を継ぐシェーンベルク、《浄められた夜》からの流れを実感できたのだった。
そのような意味で、普通はポピュラーに近い、キャバレーソングの《ブレットル・リーダー》の方が聴き易いと思われるのだが、実際には、その晩には、こちらの方がむしろ「難しい」音楽であった。というのも、もちろん調性音楽という意味ではその和声は耳に快いかもしれないが、世紀末ベルリンのキャバレーソングの「文法」については我々は殆ど無知であり、なぜこの曲で、この歌詞で、この音楽なのかというのがそれほどしっくり腑に落ちるものではないのだ。
《ピエロ》はロマン主義の音楽であると言っても過言ではないだろう、少なくともそのような意味で、こちらの方が我々にはしっくりと来たのだった。演奏者の「若さ」?そうかも知れない。しかし、それは単に若い演奏者が「現代音楽」に慣れていない(良い意味で)、というだけのことではなく、素直な演奏がシェーンベルクの音楽の今まで隠されていた側面を我々に聴かせてくれた、ということなのではないか。彼自身がブラームスの伝統を継いでいると語っていることを思い出そう。